【Vol.18】ハラスメント対策(予防)

2020.05.25 コラム

ハラスメントの防止方法について教えてください。
ハラスメントは嫌がらせをして他人を困らせるという英語の動詞harassの名詞形harassmentです。
パワハラも英語ですよね?
パワハラは和製英語です。日本独自のガラパゴス言語ですね。
英語では別の言い方をするのですか?
パワハラのことを、英語ではbullyingやabuse of authorityというようです。
「パワハラ」という言葉は、誰が作った言葉なのでしょうか?
岡田康子さんという株式会社クオレ・シー・キューブという会社を経営されている方のようです。(図①参照)

どんな社会背景があったのでしょうか?
日本経済が低迷し始めた1990年代後半に、企業がリストラを始めた際に、社員を解雇するには経費が掛かるため、精神的・心理的に追い詰めることにより、自己都合で退社させ費用を抑えようという狙いがあったようです。
どんな経費ですか?
解雇予告手当てや、退職金及び各自治体からの補助金・助成金の停止という経済損失を減らすためですね。
パワハラと言いますが、上司が部下を殴って指導するというのは私が若い頃は良く見かけましたよ。
昭和では普通のことで、30年前はパワハラもセクハラも日常の光景だったみたいですね。
明治や昭和の軍隊でも普通に行われていたみたいですが…
日本帝国陸軍でも、日常茶飯事だったようです。その源流は徳川幕府などの武士集団ですね。
現在でも、大学の体育会では、上下関係が厳しく、年長者の命令に絶対服従するという文化は日本社会に根強く残っています。
日大アメフト問題もそうでしたよね。
徳川武士政権→帝国陸軍→日本企業の体育会気質 というのが、この400年の日本人の精神の根底にあるパワハラ気質の温床なのです。
根深いのですね…
パワハラは三大ハラスメントの一つで、他にはセクハラはsexual harassment、マタハラはmaternity harassmentがあります。
いずれも和製英語ですね。前者は、上司が部下に、または顧客が受注企業社員に対して性的な強制や嫌がらせをすることです。
後者は妊娠、出産、育児を担当する女性従業員に対して解雇や雇い止めなどの不利な人事上の扱いをすることです。
パワハラの基準みたいなものはありますか?業務指導との線引きが難しい部分もあると思うのですが…
厚生労働省のパワハラの定義は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」というものです。
なるほど。優位性というのが重要なのですね。
さらに厚労省は次のようなパワーハラスメントの6類型も挙げています。(図②参照)
(1)精神的な攻撃 (2)身体的な攻撃 (3)過大な要求 (4)過小な要求 (5)人間関係からの切り離し (6)個の侵害

具体的な事例はありますか?
事務用品販売業の企業様で、ストレスチェックの結果、50歳の男性社員さんが高ストレス者として産業医面談を希望された事例があります。
ストレスチェックから上がってきた事例ですか。
産業医面談の結果、52歳の上司と54歳の上司2人から嫌がらせを受けていたことが判明しました。
どんな内容ですか?
昼食の弁当を買ってきてと言われて、その代金を立て替えたところ、払ってもらえなかったようです。
また机の上に髭剃りのヒゲを撒かれたり、病気の父の介護で有給を取得したところ、「ゴールデンウィークに死んでもらえないかな?」と言われたり、首をつかまれることもあったようです。
身体的な攻撃、精神的な攻撃に該当しますね。
立派なパワハラですよね。
小学生のイジメみたいで、情けないですね。いい大人が…
その会社は、誰でも名前を知っているような超有名企業ですよ。
ハラスメントに関連する法律にはどのようなものがありますか?
加害者個人の責任については刑法第208条の暴行罪、民法第709条の損害賠償責任が関連します。
会社の責任については、民法715条の使用者責任と労働契約法第5条の安全配慮義務が関連します。(図③参照)

犯罪なのですね…
懲役、罰金、賠償金が課されることがあります。
なるほど
ヨーロッパでは精神的な暴力に対する法整備がなされており、口で人格に攻撃をすると逮捕されるそうです。産業医学に関する法制度を専門とする近畿大学法学部の三柴丈典教授に教えていただきました。
そうなんですか?!
フランスでは、精神的な暴力に対しては、刑法と労働法の両方で罰則付きの規制があるそうです。日本でも同様の法整備が検討されています。
そうなんですね。
最近では、何でもかんでもハラスメントであると訴える労働者が増えているのも逆に問題ですね。
上司が、逆パワハラに怯えてメンタル不調になる事例もあります。
ハラスメントが日常風景だった昭和の裏返しが来たようですね。
ハラスメント問題に対して企業が取り組むべき基本姿勢を教えてください。
ハラスメントは、人が二人いれば起こります。誰もが加害者と被害者になる可能性があります。
部下の教育や組織を形成するといった、人として自然な行動の結果、起こる現象とも言えます。
なるほど。
もっとも良くないのは、「安易なレッテル貼り」です。
と言いますと?
被害者の訴えに共感するのは良いのですが、そのまま丸ごと信用してはいけません。
そうですね。
誰かひとりの話だけを元に、ハラスメントの構造を決めつけるのがまずいです。
誰が問題解決をするのが良いですか?
法律の知識が多い人ではなく、人への洞察が深い人を介入者として選ぶことが何より大切です。
そうなんですね。
緊急で介入するか、しばらくほっておいて様子を観察するかの判断ができる人が中心になるのが良いですね。
ハラスメント問題の解決には、西洋医学より東洋医学的なアプローチの方が良いことともあります。
分かりました。
法律は有効なツールですが、あくまで問題解決のチャンネルの一つです。ハラスメント問題は、裁判以前の段階で解決することが重要です。
予防法務的な視点が必要なんですね。
そうです。ただ、ハラスメント問題が発生して、最終的な法的解決に至るためには、加害者と被害者の双方が証拠を残しておくことが重要です。
証拠?
メールや録音といった証拠が裁判では重要視されます。
分かりました。
医師は病気を治すのが仕事ですが、法律家はトラブル解決が仕事です。
まあそうですね。
裁判では、権威・建前・理屈というのが重要です。
極論すると「偉い人が言っているからその通りにしなさい」といった判決が出ることが多いようです。
会社としてはそれに備えておくことが大事なんですね。
加害者をやっつけることではなく、被害者がやるべき課題を自ら見極めてそれを実現していることが、本質的な解決に近いという点が重要です。
そうなんですか。
紛争解決は法律家の仕事ですが、人事部の仕事は、個々の労働者が自分と仕事に自信をもてる環境を作ることです。
分かりました。
個別の事例がハラスメントに該当するかどうかは、
①刑法上禁止された行為とその周辺
②耐えがたい屈辱
③業務として正当といえる範囲を逸脱
という3点で判断されます。
なるほど。
「お前なんかいても意味がない」「お前がいない方が仕事が進む」といった発言が繰り返しなされた場合はハラスメントと認定される可能性が高くなります。
もしそのような発言がなされた場合どうすれば良いですか?
言い過ぎたと思われた場合は、口頭やメールなどでフォローして置くことが、紛争予防に有効です。二次予防ですね。
そうなんですね。
従業員が顧客の過度のクレームにさらされているにも関わらず救済措置を取らなかった場合もハラスメントと認定される可能性があります。
分かりました。
会議で反論できないような環境で一方的に叱責することもハラスメントと認定された事例もあります。
気をつけます。
解雇がハラスメントに該当することもありますか?
ならないようです。解雇のやり方に明らかな問題がある場合を除いて、解雇そのものがハラスメントとして認定されません。
分かりました。
法的に心理的な配慮が求められる時代ですね。
はい。
ストレスの強い業務の場合、定期的に上司または産業保健のスタッフが面談を行い、本人の個性や感じ方の把握をすることも重要です。
なるほど。
また、問題行動がある従業員に人事上の処分をするときにも「不利益処分というハラスメントを受けた」と言われないためには注意が必要です。
どのような注意ですか?
業務上問題がある従業員に対する降格処分も、就業規則や個別的な業務命令に基づいて不利益措置を講じてください。
個別的?
問題行動を抑制するような約定を結んでその違反に個別的に措置を講じることですね。
なるほど。
本人の能力不足を過度に叱責することは不法行為と認定される可能性があります。
そうなんですか?
本人の能力不足に対しては、就業規則に基づいて配置転換や降格などの措置を取ることが重要です。
性格的に反抗的で問題のある従業員に対して苦労しています。
会社に対しても人事上の不利な措置へのクレームを言ってきます。モンスター従業員と呼んでいいのかどうか分かりませんが・・・
二正面方法はいかがでしょうか?
何ですかそれは?
常識が通用しにくい従業員に対する対応法としては、北風と太陽、父性と母性、飴とムチのように、落差を大きくつけて対応していくのが効果的です。
なるほど。
それも複数の人で対応することが更に有効です。
優しい役と厳しい役を役割分担して対応するんですね。
いきなりムチではなく、はじめは飴の対応をしてください。
はい。
はじめは優しく業務指導を行い、また本人の訴えを聞き、組織に問題がある場合は謝罪し改善してください。
またその経緯記録として残していってください。
分かりました。
面倒くさい人を対応するには幅が要ります。優しさと厳しさです。
その落差が大きい程、問題解決に繋がりやすくなります。
そうなんですか。
面倒な人と対応するときに最も重要なのは冷静になることです。
はい。
必ず突破口はあります。修羅場で冷静に対応できるのがプロですよね。
なるほど。
これが訴訟を回避し、また仮に訴訟になった場合でも勝訴する秘訣のようです。
分かりました。
ハラスメント対策の最終目的というのは、全ての労働者が、自分が所属する組織や担当する業務に適応し、成長することにあります。
そして、それを全メンバーに周知していく必要があります。