【Vol.21】受動喫煙

2020.03.25 コラム

タバコの害について教えていただけますか?
はい。
私はタバコを吸わないのですが、飲食店経営をしている当社の喫煙率は非常に高いと思われます。
どれくらいですか?
5 割くらいだと思います。
2018年の全国平均が男性27%、女性8%、平均18%のようです。
嗜好品とはいえ、今後、このあたりをなんとかしないとダメのような気がします。
会社として取組んだ方がいいでしょうね。
全体的に喫煙者率は減少していますが、肺がんの死亡者数は増えています。
どうしてでしょうか?
タバコを吸ってから肺がんになるには20年かかります。
現在、肺がんで亡くなっている人は20年前の喫煙習慣が原因の方が多いということですね。
それを見て若い人は喫煙を控える人が増えているのでしょう。
なるほど。
[ 喫煙率低下→肺がん増加 ]
という因果関係でなく、
[ 肺がん増加→それをみて喫煙を止 める人が増える ]
という因果関係ですね。
分かりました。
たばこを吸うと肺がんになりやすいと聞いたことがありますが本当でしょうか?
本当に害があるのでしょうか?
地球温暖化と同じレベルで科学的によくわかりません。
科学的には、喫煙と肺の扁平上皮癌との因果関係はほぼ確定しています。
危険性(オッズ比)は3.2倍になるようです。【資料①】
【資料①】
タバコの煙の吸入と肺がんのリスク:大規模な日本人集団におけるケースコントロール研究
いくつかの研究は、タバコの煙の吸入がヨーロッパの人口の肺癌(LC)のリスクの増加と関連していることを示しました。
私たちの研究の目的は、日本の人口におけるタバコの煙の吸入とLC のリスクとの関係を明らかにすることでした。
日本での喫煙とLC のリスクに関する大規模な症例対照研究を実施しました。
症例は、組織学的にLC が確認された新たに診断された患者でした(n = 653)
コントロール(n = 1281)には、病院コントロール(n =453)および地域密着型コントロール(n = 828)が含まれていました。
オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、年齢、性別、飲酒状態、果物と野菜の摂取量、LC の家族歴、職業、教育年数などの基本的な交絡変数に対して調整された無条件ロジスティック回帰分析から導き出されました。
決して喫煙者と比較して、タバコの煙を吸い込まない喫煙者(非吸入)とタバコの煙を吸い込む喫煙者(吸入)のOR は、
調整時にそれぞれ1.72(95% CI:1.15-2.59)と3.28(95% CI:2.38-4.53)でした基本的な交絡変数の場合。
分析がこれまで喫煙者に制限されていた場合、吸入グループの基本的な交絡因子とパックの年のリスクを調整したOR は、非吸入グループのそれよりも有意に高かった。
吸入群と比較した吸入群のOR は1.52 でした(95% CI:1.06-2.18、P = 0.021)。
同様のパターンが、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、およびその他の組織型のサブカテゴリ分析で観察されましたが、統計的有意性はありませんでした。
(Fukumoto K, et al. Cigarette smoke inhalation andrisk of lung cancer: a case-control study in a largeJapanese population. Eur J Cancer Prev. 2014)
受動喫煙についてはどうでしょうか?
受動喫煙による肺がんのリスクは、1.3倍のようですね。
そもそも、たばこの何が悪いんですか?
一酸化炭素と、その他5000種類以上の化学物質ですね。
そんなに種類があるんですか?
火事で人が死ぬのは何故かご存知ですか?
「やけど」ですか?
それもありますが、最大の原因は、急性一酸化炭素中毒です。
そうなんですね。
木や紙が燃えると、二酸化炭素と一酸化炭素が発生します。そのうち、一酸化炭素が猛毒なんです。
そうなんですね。
一酸化炭素は無色無臭の気体です。
それを吸い込むと肺から血液に移行し、血液中の赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパク質に結合します。
ヘモグロビン?
酸素を運搬するタクシーと考えてください。
本来、酸素(O )を乗せるべきタクシーが、一酸化炭素(CO)によって満員になっているため、脳細胞がまず、酸欠で死んでしまうんです。
一酸化炭素を大量に吸入した場合、5分以内に脳細胞は死んでしまいます。
そんなに早く!?
喫煙というのは、口の中で毎日火事が起きている状態です。喫煙の本質は、慢性一酸化炭素中毒ですね。
知りませんでした。
 一酸化炭素に加え、たばこの煙の中にはたばこ自体に含まれる物質と、それらが不完全燃焼することによって生じる化合物が含まれています。
合計約5,300種類と報告されています。
すごい数ですね。
 その中には、多環芳香族炭化水素類(たかんほうこうぞくたんかすいそるい;PAH)やたばこ特異的ニトロソアミン類などの、発がん物質が約70種類含まれています。
発ガン物質の塊なんですね。
これらの有害物質は、たばこを吸うとすぐに肺に到達し、血液を通じて全身の臓器に運ばれます。
DNAに損傷を与えるなど、がんの発生メカニズムのさまざまな段階へ関与して、がんの原因となります。
有害性は明白なんですね。
はじめは「タバコは身体に良い」ということで、400年ほど前に、日本に入ってきたようです。【資料②】
【資料②】
【「たばこ」が日本へ伝わったとされる2 説】
①天文年間説
天文12(1543)年に種子島に漂着したポルトガル人が、鉄砲とともに伝えたとする説

②慶長年間説
慶長10(1605)年前後に、ポルトガルやスペインなどの西欧諸国=南蛮から渡来したとする説

そうなんですか?
タバコ自体はナス科タバコ属の南米原産の植物で、コロンブスのアメリカ大陸発見後、ヨーロッパから伝わったようです。
日本に伝わった経路には2つ説があるようです。
私は吸わないからわからないのですか、そんなにおいしいのでしょうか?
ドーパミンが出るんですよ。
ドーパミン?
やる気をつかさどる、脳内伝達物質です。とても強い快楽物質です。
ニコチンではないんですか?
タバコに入っているニコチンが、肺から血液に入り、それが脳に移行し、ドーパミンの分泌を促すんです。
なるほど。
禁煙外来で処方されるチャンピックスという薬は、そこをブロックします。
タバコを吸ってもドーパミンが出なくなるんですか?
旨味がないんです。給料が出なくなったらどうなりますか?
働かないですよね。
そういう原理の卒煙薬です。
個人では禁煙外来を利用するというのは、理解できましたが、会社としてどのように喫煙に取り組んだら良いでしょうか?
2003年に健康増進法が施行されました。受動喫煙について定められています。
【法文①】
【法文①】
第六章 受動喫煙防止
第一節 総則
(国及び地方公共団体の責務)
第二十五条 国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙に関する知識の普及、受動喫煙の防止に関する意識の啓発、受動喫煙の防止に必要な環境の整備その他の受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならない
(関係者の協力)
第二十五条の二 国、都道府県、市町村、多数の者が利用する施設(敷地を含む。以下この章において同じ。)の管理権原者(施設の管理について権原を有する者をいう。以下この章において同じ。)
その他の関係者は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置の総合的かつ効果的な推進を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
(喫煙をする際の配慮義務等)
第二十五条の三 何人も、特定施設の第二十五条の五第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。
2 多数の者が利用する施設の管理権原者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない。
はい。
その後も、国立がん研究センターから受動喫煙による肺がんの因果関係も指摘され、
受動喫煙を予防することが2018年から法律で事業者に義務付けられました。【資料③】
【資料③】
受動喫煙、肺がんリスク1.3 倍 がんセンター 因果関係「確実」と指摘    
【2016/8/31 日本経済新聞】
国立がん研究センターは30 日、家庭や職場など人が集まる場所で周りが吸ったたばこの煙にさらされる受動喫煙がある人は、肺がんにかかるリスクが約1.3 倍に高まるとする研究結果を発表した。
同センターはこれまで受動喫煙が招く肺がんのリスク評価を「ほぼ確実」としてきたが、科学的な裏付けがとれたとして「確実」に引き上げた。予防対策などに生かす。
国立がん研究センターがん対策情報センターの若尾文彦センター長は「日本の受動喫煙対策は世界の中で最低レベルにある。
東京五輪を契機に屋内完全禁煙を実施する必要がある」と訴えた。
研究グループは受動喫煙と肺がんの関連を示した426 本の論文のなかから、1984 年から2013 年に発表された9本の論文を選び、たばこを吸わない人が受動喫煙によって肺がんになるリスクを分析した。
その結果、受動喫煙のある人はない人より肺がんにかかるリスクが1.28 倍だった。
受動喫煙と肺がんの関係は80 年代から指摘されていたが個別の研究では科学的な根拠が無く、リスクを高めるかどうかは確実とは言い切れなかった。
複数の論文をそろえて分析したことで、受動喫煙が肺がんのリスクを高めることが確実となった。
研究結果を踏まえ、同センターは喫煙、飲酒、食事など6項目で予防法を示している「日本人のためのがん予防法」でも現行の「他人のたばこの煙をできるだけ避ける」から「煙を避ける」と修正した。
受動喫煙は肺がんだけでなく、循環器疾患や呼吸器疾患などにも影響する。
厚生労働省研究班は受動喫煙が原因で死亡する人は、肺がんや脳卒中などを含めて国内で年間1 万5 千人に達するとの推計をまとめている。
同センターの片野田耕太・がん登録統計室長は「遅きに失した感はあるが、対策を急ぐ必要がある」と話す。
分かりました。会社としても取り組んでいきたいと思います。
ちなみに、「ニコチン依存度が高い労働者の方が、業務中に怪我を起こすリスクが2倍高い」という論文が、2018年2月、日本産業衛生学会雑誌に発表されました。
日本製鉄株式会社の守田祐作先生の研究です。
そうなんですか!
また、星野リゾートというホテル運営会社では、喫煙者を採用しないようです。
【資料④】
【資料④】
たばこを吸う人は採用しません――。最近、「非喫煙」を採用条件に掲げる企業や大学が増えている。
受動喫煙が社会問題化する中、7月に一部施行された改正健康増進法で、学校や病院、行政機関などの敷地内が禁煙になったことを受け、流れは加速しそうだ。
「喫煙者は不採用」について改めて考えた。
【聞き手・小国綾子】
出典元:毎日新聞 2019 年9 月6 日 東京朝刊
どんな理由があるのでしょうか?
星野社長は、その理由を右記の3つとしています。【資料⑤】
【資料⑤】
■作業効率
喫煙者は血液中のニコチン含有量の減少により集中力を維持することができなくなります。
私のホテル業界での経験の中で、スタッフの集中力を維持させるため、勤務時間中に喫煙をさせる対応を行っているケースを何度も見てきました。
これはスタッフ本人の能力の問題ではなく、中毒症状という病理的な原因によるものであり、結果的に社員の潜在能力を低下させています。
■施設効率
健康増進法の施行により、企業内の職場では分煙環境が必要になってきております。
しかし、リゾート事業においては、少しでもスペースがあるなら顧客へのサービスに当てるべきです。
採算性の理由から厨房や作業用のバックスペースも節約している時に、社員の喫煙場所に投資するのは利益を圧迫することになります。
■職場環境
喫煙習慣のある社員には喫煙のための場所が設置され、より頻繁に休憩が認められるということは、喫煙習慣のない社員から見ると不公平に感じる問題です。
「なぜニコチン中毒の社員だけを企業は優遇するのか」とアルコール中毒の社員が主張したら、従業員食堂の横に社員用のバーを設置するのでしょうか。
ニコチンが切れて集中できないという状況は、アルコールが切れて手が震えるという状況と差はありません。
出典元:ハウスコム株式会社 HP より 
なるほど。
星野社長がこの人事採用方針を打ち出されたのは2010年ですから、今回の論文を先取りしていたようですね。
しかし法的に可能なのでしょうか?
労働局にも確認したのですが、企業には採用の自由(最高裁判決)があるので、喫煙者を採用しないという理由に合理性があるため、行政はそれだけをもって指導はしないということです。
なるほど。よくわかりました。